よく先行研究の書き方について、質問を受けます。ただ、注意が必要なのは、先行研究の論文の中での位置づけは、分野によってかなり異なると言うことです。既にこのFAQの中でも様々な意見が出ているくらいですので、どうして、その位置づけや書き方がことなるのか、大まかな分野による考え方の違いを、まとめておこうと思います。
私自身は、その専門分野ゆえ(メディア研究)、情報処理学会を中心とする理系的アプローチをとる学会の論文もよく読みますし、社会学を中心とする文系的なアプローチをとる学会の論文もよく読みます。こういったある種の「雑読」は、SFCの学生の特徴であると思うのですが、読んで行くとこの「先行研究の扱い」の大きな違いに気づく人も多いのではないかなと思います。
文系の研究者にとって、ある意味、先行研究の記述は命です。論文では、自分の論を立てていく際に、すべての人(でなくともある程度の人々が)が納得して「その考えが妥当である」という考えから出発しないと、当然のことながら、そこから派生した自分の考えや主張に、説得力を持たせることが出来ません。みなが持っている「そうだよね」という概念から出発し、この解釈をこう変えた方が納得度が高まりそうだ。であるとか、こういう調査結果が出たので、この概念はこういう風に理解を変えるべきだよね。と言った具合に、「違い」を強調することになります。逆に言えば、先行研究がしっかり整理できているからこそ、この違いが明確になるわけです。文系の論文では、この先行研究の整理を「概念的枠組み」と呼ぶこともあり、まさに自分の主張を主張するための土台となるわけです。そのため、論文における順番も、序章やはじめにの直後にくることが多くなります
一方で、理系的な論文の場合、先行研究は、「Related works/関連研究」といって、最後に参考程度に記載されることも多いです。特にIT系の論文はそういうことが多い印象です。これは、これまで論文を読んできた感覚なのですが、理系の論文の場合、先人が何をつくったかというより、目の前にどういうものがあり、そこからどういう「データ」がとれたかと言った現在の「事実」が優先される傾向が強いためだと思っています。つまり、とれるデータには「解釈の余地」があまりないというスタンスを取るわけです。逆に言えば、文系のアプローチの場合、データの解釈の多様性をみとめるため、先人がどう考えていたかが重要になるわけです。
もちろん、単純に文系的・理系的と言った二分法で、すべての事実やアカデミックな領域がくくれるわけではありませんが、傾向としてこのような方向性があるのは、他のコンサルタントと話していても事実だと思います。
みなさんも、論文を書く際は、自分が本質的にどのようなアプローチを取るのか、考えてみると、より自分が行っている学問の意味が見えて、面白いと思います。そして、分からなくなったら、是非コンサルタントのデスクへ遊びに来て下さい(笑)